虫歯は削るな
現在は虫歯の治療において、できるだけ歯を削らないように配慮します。極力歯の本来の原型をとどめる方が歯の寿命は明らかに長くなるからです。
現在の虫歯治療のコンセプトとして
①歯はなるべく削らない
②なるべく神経を取らない
③なるべく冠でかぶせたりしない
④極力抜かない
このような考え方が主流になってきています。つまりできるだけ必要最小限で治療を完了させることを目標としています。
この小冊子の冒頭でお話ししたとおり、削って詰めた歯の寿命は約40年、神経を取ってしまった歯の寿命は約15年です。神経を取ってしまうと、ほとんどの場合破折して抜歯になってしまいます。このことを考慮して治療を行うと、「できるだけ削らない」治療が理想です。そのためタービンと呼ばれる器械はなるべく使いたくないものです。タービンとは、皆さんもご存知のとおりキーンと音のする昔からある歯医者独自の切削器具です。
- 先端のドリルで歯を削る タービン
従来の治療法は、虫歯そのものや虫歯周辺の歯質を全て除去する事を基本とする治療法でした。虫歯菌(ミュータンス菌やラクトバチラス菌)に感染している部分を徹底して削り、虫歯が深ければ神経を取り、虫歯の感染拡大を防ごうとしていました。そのため虫歯治療によって歯の大部分を失い、かえって寿命を縮める行為とも考えられるようになってきました。
しかし現在は極力歯を削りたくないため、タービンの使用は控えできるだけスプーンエキスベーターという器具により、虫歯によって表層の脆弱な部分のみを削除します。
残りの感染した部分は削らず、抗生物質で殺菌消毒を行い詰物を行うスタイルに変わってきています。
- ドリルやモーターを使わず 手で虫歯をかき取る スプーンエキスカベーター
このスタイルが確立されたことにより、歯の削る量は最小限になり、従来より歯の寿命を延ばすことができるようになりました。もちろん完璧な治療方法とはいえませんが、少なくとも神経を取る治療を1日でも先送りにすることが可能となったのです。このように予防や治療を通じて、常に歯科での根底には「歯の寿命」を意識して患者さんと接する医院が少しずつ増えてきています。
虫歯や歯周病は防げる病気です
又、歯の寿命を意識して予防中心の医院を運営していると来院される患者さんの来院動機や、治療の内容が変わってきました。治療中心のスタイルのころは、虫歯や歯周病で歯が痛いという理由で来院される方が大判だったのです。しかし予防中心の医院に方向転換すると、虫歯や歯周病で来院される患者さんが減少していくのです。
ここで興味深いデータをご紹介しましょう。まだまだ多くの歯科医院が治療中心で行われている日本における、全国抜歯原因調査結果のデータです。 歯が失われる原因で最も多かったのが「歯周病」(37%)で、以下「虫歯」(29%)「破折」(18%)「その他」(16%)でした。
一方予防歯科の先進国であるスウェーデンの抜歯の原因は「破折」(62%)「歯周病」(5%)「虫歯」(7%)「その他」(26%)となります。つまり予防歯科を推進していけば少なくとも、歯周病と虫歯で歯を失うことはなくなります。つまり虫歯と歯周病は必ず防げる病気である断言してもよいでしょう。