歯を失った患者さんたち

この横浜の地に歯科医院を開業して、ずいぶん時が経ちました。

さまざまな患者さんに対して虫歯や歯周病の治療をしてまいりましたが、私が実際に診療し、治療をしてきた患者さんの事例をご紹介します。
歯が痛くなった時だけ来院し、歯科医師が削って詰める治療を繰り返した結果歯を失ってしまった患者さんや、歯科医院でのメンテナンスに定期的に通っていたにもかかわらず、虫歯がたくさんできてしまった患者さんの事例です。

ご紹介するような患者さんのお口の状態を経験するたびに、私はとても心を動かされ、「治療のない診療室」を目指して予防歯科へシフトすることになったのです。

Sさん 22歳 女性

初診は平成19年、当時は6歳でした。乳歯の治療からスタートし現在はお父さま、お母さま、妹さんも含め家族でメンテナンスで来院されています。ご本人は治療後2~3か月ごとにお母さまに連れられてきちんとメンテナンスのために来院されていました。15歳ごろからは1人での来院です。染め出し、歯磨き指導、クリーニング、フッ素塗布などが当時の当院のメンテナンスです。当時は治療がなければレントゲンは撮影していませんでした。16歳ごろ学校検診にて、虫歯を指摘され来院されます。

視診では問題ないのですが、念のためにX線撮影すると歯と歯の間にできる虫歯が5本あり、しかもどれも重度の虫歯レベルです。

いつどの虫歯も神経を抜かなければならない状態になってもおかしくありません。現在22歳でそのうちの1本の神経を抜いています。当時とても罪悪感を感じ歯科医師をやめたくなりました。Sさんは永久歯列になってもきちんとアポイントを守りメンテナンスでの来院を継続していたからです

自分がおこなっている予防は言ってみれば詐欺ではないのかと思いました。形だけで本当の虫歯の防止に役立たない予防歯科を実践していたからです。Sさんにはメンテナンスでお支払いいただいた、過去の費用を全額返金したいと思ったくらいです。

そこで本当の予防を学びたいという衝動に駆られて、山形県酒田市の日吉歯科診療所で「オーラルフィジシャン育成セミナー」を受講し、予防歯科に対するアプローチを根本的に改善しました。 そこでは後述するメディカル・トリートメント・モデル(MTM)というスウェーデンの予防歯科を学んだのです。

セミナーの受講後、Sさんに対しても、予防のアプローチの仕方をがらりと変えました。年に1回のX線撮影、唾液検査、口腔内撮影等を行い、およそ3か月に1回当院でのオフィスケアを行っています。また、ホームケアのみならず脱灰、再石灰化の仕組み等もお話し現在も通院されています。自分にとっては歯科医師人生の方向性を変える患者さんとなりました。

Fさん 79歳 男性

開業当初からいらしている患者さんです。当時の当院はバリバリの治療型歯科医院でした。

奥歯は来院時から歯がなく、10年くらい経過したところで虫歯と重度の歯周病が重なり上顎のすべての歯がなくなりました。にもかかわらず総入れ歯の作成は「気持ち悪い」との理由で希望されません。下顎に残っている歯は9本程で、この状況で何とか食事を行っているとのことでした。初診から13年経過して、身体的な衰えが目立ちます。もしこの患者さんの歯が残っていれば、違う人生を歩めたであろうと思います。

下顎に残る歯を失いたくないとのことで現在もメンテナンスで来院中ですが、すでに神経を取っているため歯の寿命は長くないと推測されます。上下の奥歯が揃っていない状態を放置すると、歯の寿命は本当に短いと実感いたしました。

やはり、治療をすればするほど歯を失う典型的な症例でした。ご本人には本当に申し訳ない思いがあり、お会いするたびに複雑な心境になります。

〒247-0033

横浜市栄区桂台南1-18-2

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